
- 無精子症ってどういうこと?
- 無精子症の原因や治療方法を知りたいです。
- 無精子症の場合、もう妊娠は諦めないといけませんか?
- 無精子症の手術にはどんなものがあるの?
こんな疑問にお答えします。
精液検査を行って精子の数や状態で4つに大別されます。乏精子症、精子無力症、精子奇形症、無精子症。
この中でも最も重症である無精子症に焦点を絞って見ていきます。
- 無精子症の割合や原因を理解することができる
- 無精子症だからと諦める必要がないことがわかる
- 早く治療に取り掛かることで妊娠の確率が高くなる
無精子症とは?
無精子症とは精液中に精子が全く無い状態をいいます。
近年増加傾向にあり、男性の100人に1人は無精子症であるといわれています。

およそ1%ですから意外と多いですよね。
無精子症は閉塞性と非閉塞性の2タイプに分けられます。
閉塞性は、精巣内で精子が作られているものの精子の通り道が塞がっている状態。
非閉塞性は、精巣内で精子が全く、もしくはほとんど作られていない状態です。
そして無精子症の8割は非閉塞性無精子症といわれています。
無精子症男性の特徴
無精子症だと精液中に精子がいないのだから精液が出てこないとか透明な精液が出てくるとイメージされる人もいるかもしれませんが、見た目の大差はありません。
まして、基本的には自分の精液を他人と比べることなどありませんから自分の精子が無精子症かどうか見ただけで判断することなどできません。
そして、精子は極々小さいもので顕微鏡でなければ見ることはできません。
そのため、通常の精液と無精子症の精液の特徴には違いはないとされています。
精液の色やニオイ、粘り気の違いが見られることもあるでしょうが、精子の有無ではなく精液が原因で起こります。
精液と精子は違うのです。
精液の色やニオイは気にせず、不妊期間が長いときは精液検査を受けるべきです。
無精子症の原因
閉塞性無精子症の場合、精巣輸出管、精巣上体管、精管、射精管といった精子の通り道が尿路感染や性感染症、子供のときに受けた鼠径ヘルニアの手術の後遺症により閉塞することが原因で起こります。
非閉塞性無精子症の場合、ホルモンの異常か、精巣の造精機能に何らかの問題があるかのどちらかが原因と考えられています。
ただし具体的な原因を突き止めるのは困難な疾患になります。
無精子症になる遺伝子異常発見
近年、無精子症の原因となる新しい遺伝子異常が発見されました。
Stx2 遺伝子ノックアウトマウスは精子形成不全を呈することが知られていましたが、ヒトSTX2 遺伝子の機能は不明でした。われわれは、国内の医療機関を受診された日本人非閉塞性無精子症患者さん131例を対象としてSTX2 遺伝子シークエンス解析を行いました。結果、1例の患者さんにホモ接合性フレームシフト変異 [c.8_12delACCGG, p.(Asp3Alafs*8)] を同定しました。その患者さんの精巣では、Stx2 遺伝子ノックアウトマウスの精巣組織像の特徴的所見とされる「多核化精母細胞を伴う減数分裂停止像」が見いだされました。STX2 がヒト無精子症の原因遺伝子の一つであること、さらにSTX2変異は特徴的な精巣内の細胞の変化を招くことが明らかとなりました。原因不明の男性不妊症患者さんの一部には、この遺伝子の変異を持っている方がいると推測されます。
出典:Shigeru Nakamura, Yoshitomo Kobori, Yoshihiko Ueda, Yoko Tanaka, Hiromichi Ishikawa, Atsumi Yoshida, Momori Katsumi, Kazuki Saito, Akie Nakamura, Tsutomu Ogata, Hiroshi Okada,Hideo Nakai, Mami Miyado and Maki Fukami
発見され、可能性の示唆に留まっているにすぎませんが、もしこの遺伝子が原因で起こっているのであれば、遺伝子をどうにかすることで無精子症を回復させることができる未来を期待してしまいます。
無精子症の検査
精子がいるかどうかを判断するには精液検査が必要になります。
精液検査で精子が見つからないときや極端に数が少ない際には、さらに詳細な検査を行います。
問診、触診、ホルモン値検査などを行い、精子の形成を促すホルモンであるFSHの値や睾丸の大きさが正常であれば閉塞性無精子症の可能性を疑います。
FSHの値が高く睾丸が小さい場合や触診で痛みを感じる場合は非閉塞性無精子症の可能性を疑います。
初回の精液検査で精子が見つからなくても、次の検査でごく少数ながら元気な精子が見つかることもあります。
ですから1度で諦めることなく2回目も検査をすることをお勧めします。
複数回の精液検査結果を総合的に判断して、最終的な診断と治療法が決まります。

自宅でできる精液検査もあり、無精子症かどうかを判断するだけであれば精液検査キットでも十分です。
精子がいるかどうかだけわかればいいのですから。
≫≫まず精子を調査!【精液検査の方法と費用】今や自宅で出来るキットも
無精子症の治療方法
無精子症には閉塞性無精子症と非閉塞性無精子症がありますが、治療方法にも違いがあります。
閉塞性無精子症の治療方法
自然妊娠を望んでいて、女性側に不妊原因がなくカップルの年齢が35歳未満の場合には精路再建手術という方法があります。
精路に閉塞がある場合にその部を取り除いて精路を再建します。
その閉塞部位によって方法が異なります。
精路再建手術は、精路通過障害を解除できれば、射出精液中に精子が認められ、自然妊娠が期待できる治療法になります。
精管精管吻合術
パイプカット術後や鼠径ヘルニア術後など、精管の閉塞が原因で無精子症を呈している症例に行われます。
閉塞部位の末梢側と中枢側の開通している精管同士をつなぎあわせる顕微鏡下精管精管吻合術が行われます。
閉塞していた期間や原因等にもよりますが、術後には約80-90%の症例で精液中に精子の出現が認められます。
精管精巣上体吻合術
精巣上体炎後等、精巣上体での閉塞が原因で無精子症を呈している症例に行われます。
精巣上体の一部を切開し精管とつなぎあわせる顕微鏡下精管精巣上体吻合術が行われます。
閉塞の原因にもよりますが、約40%程度の症例で、術後に精液中に精子が出現します。
射精管解放術
前立腺嚢胞等が原因で、射精管(前立腺にある精液が尿道に出てくる部位)の閉塞がある症例では、経尿道的内視鏡を用いた射精管解放術を行います。
これにより、精液量と精液所見の改善が見られます。
女性側にも何らかの不妊原因があるときや、年齢が35歳以上の場合は、精巣や精巣上体内の精子を採取して顕微授精を行う方法が検討されます。
非閉塞性無精子症の治療方法
ホルモン異常が原因の場合は、ホルモン剤を注射することで精子が精液中に出現する可能性があります。
また、MD-TESE(精巣内精子採取術)と呼ばれる手術で精子を探すこともありますが、精子の採取成功率は30%ほどです。
精子が一つでも見つかれば、採卵した卵子とともに顕微授精を行って妊娠できる可能性があります。

手術方法によって採取成功率や再発率などに違いがあります。
閉塞性無精子症 | 非閉塞性無精子症 | |
概要 | 精巣で精子は作られているが、精子の通り道(精管)に問題が生じている。 | 精巣そのものに精子を作る機能がない、もしくは機能が著しく低下している。 |
割合 | 無精子症の20%程度 | 無精子症の80%程度 |
診断方法 | 精子検査、問診、視診、触診、ホルモン検査、染色体検査 | 精子検査、問診、視診、触診、ホルモン検査、染色体検査 |
原因 |
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無精子症患者のうち、8~15%程度の頻度で染色体異常が認められる。最も頻度の高いものがクラインフェルター症候群 |
対処法 |
精巣を切開し精子を採取する手術法です。手術時間も短時間ですみます。閉塞性無精子症の場合、当該手術によりほぼ確実に精子を採取
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手術用顕微鏡を用いて精巣から精子を採取する手術法です。非閉塞性無精子症の場合は、精子が存在する場所が限られているため、手術用顕微鏡を用います。30~40%程度の割合で精子の採取 |
事前診断 |
採血により検査を行います。当該検査により、精子を回収できないことを判断 |
無精子症の治療で改善できない場合
精巣精子採取術を行っても精子の得られない無精子症や、高度の精液性状の低下・無精子症の方で治療をおこなっても妊娠に至らない場合、夫婦の強い希望があれば非配偶者(夫以外の提供者)の精子を用いた人工授精治療を考慮することも出来ます。

非配偶者間人工授精といいます。
ただ、この治療法では父親と子どもに遺伝的なつながりがなくなること、子どもにその事実を伝えるかどうかなど、子どもが出来てからも考え続けなければならない問題が多く、医師の側からどの御夫婦にも勧められる治療法ではありません。
無精子症でも妊娠できる?
無精子症であっても妊娠の可能性はゼロではありません。
1匹でも精子が見つかれば妊娠の可能性がでてきます。
ここ最近ではダイアモンドユカイさんが無精子症で有名で、無精子症の絶望を乗り越えて妊娠出産に至りました。
壮絶だったと思います。
私は無精子症ではありませんでしたが、たった50万という非常に少ない乏精子症でした。
精子がいたにはいましたが、少なすぎる精子の量にショックと共に、男性であることを否定された気持ちになりました。
≫≫【私はこれで妊娠しました!】男性不妊でも妊娠できた5つの方法

ユカイさんはこれ以上のショックを受けていたことでしょう。私ごときでは計り知れません。
ただ、ここで見落としていけないことがあります。
せっかく奇跡的に見つかった1匹の精子が動いていないと結局なにもできないのです。
これは不妊専門医が話している内容ですが、せっかく発見された1匹の精子も稼働していなければ妊娠には至りません。
不妊治療は経済的にも精神的にも非常に大きな負担になります。
何年も継続できるものではありません。
現実を見て、どこまで治療をするのかを夫婦で話し合うことが非常に重要だと思います。
まとめ
- 精子がまったくいない状態を無精子症と言い、男性100人に1人の割合でみられる
- 先天性と後天性の原因があり、8割は非閉塞性無精子症である
- 精子がいるかどうかは精液検査で知ることができ、自宅でできる精液検査キットもある
- 無精子症の治療は手術になるが、手術方法によって成功割合が異なる
- 動いている精子が1匹でもいれば妊娠の可能性はある
無精子症だからと全てを諦める必要はありません。
わずかな望みがあるのであれば、心から子供が欲しいとご夫婦が願っているのであれば、挑戦してみるべきです。
あそこでこうしていれば、あの時やっていればと後々後悔しない選択をしてください。
参考文献